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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(あ)1193号 判決

主文

本件上告を棄却すする。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人中井秀之の上告趣意第一点について。

所論は、原判決は、第一審判決にはその法令適用中併合罪の刑の加重をするにあたり刑の最高限の制限規定である刑法一四条を適用した旨の摘示がなされていない違法があるけれども、第一審判決の宣告刑から見れば、同条を適用してその制限に従つて量刑処断している趣旨が推認されるから、右違法はいまだ判決に影響を及ぼすものではないと判示しているが、この判断は、名古屋高等裁判所昭和二五年一二月一一日判決(高裁刑集三巻四号七七〇頁)に違反するというのである。

所論引用の名古屋高等裁判所の判例は、詐欺罪につき累犯による刑の加重をしたうえさらに併合罪の刑の加重をする場合に刑法一四条を掲記しなかつた第一審判決に対し、同条を適用しない違法があり、かつ、この違法は判決に影響を及ぼしえないとはなしえないと判示して、第一審判決を破棄したものであるから、所論のとおり、原判決は、右判例と相反する判断をしたものといわなければならない。

しかし、第一審判決には、同判示にかかる被告人の各罪につき累犯の加重をしたうえ、併合罪の加重をするにあたり刑法一四条を適用しなかつた違法があるが、被告人に対するその宣告刑(懲役六月および罰金二万円)は正当な処断刑の範囲内にあるものであり、かつ、被告人の本件犯罪事実の内容その他記録上うかがわれる情状に徴すれば、右宣告刑が重きに過ぎるものとは認められないから、右違法が判決に影響を及ぼすこと明らかであるということはできず(当裁判所昭和二七年(あ)第六九七号同三〇年三月一六日大法廷判決・刑集九巻三号四六一頁参照)、第一審判決を維持した原判決は結論において正当である。すなわち、所論引用の判例を変更して原判決を維持すべきであるから、所論判例違反は、原判決破棄の理由とはならないものである。

同第二点について。

所論は、憲法三一条違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(所論第一審第九回公判調書中の「公判をした裁判所及び裁判官」欄に「金沢地方裁判所小松支部越後文男」とあり、また、「裁判所書記官」欄に「宮本増」とあるのは、同公判調書の末尾に作成者として金沢地方裁判所小松支部裁判所書記官越後文男の署名および押印があり、また、裁判官認印欄に「宮本」の認印があること、ならびに第一審のその余の公判調書および判決書の各記載に徴すれば、それぞれ「金沢地方裁判所小松支部宮本増」および「越後文男」の単なる誤記にすぎないと解するのが相当である。)。

よつて、刑訴法四〇八条、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(村上朝一 岡原昌男 小川信雄)

(上告趣意省略)

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